Retrovirus
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Since 2001.02.16 Japanese versiton Only.

honeyed emotion

「……は?」

 目の前に差し出された小さな包みを差し出す本人を見る。

「いや、だから、チョコ」
「何でお前から貰わないといかんのだ?」
「いや、だから、今日バレンタインデーじゃん?」

 ……そう言われてみれば、家庭科の実習で何か作らされたような気がする。
 さらに思い出したが、そう言えばクロも何か喚いていてチョコっぽいものを握らされたような気がする。
 そういやどこにやったか、アレは。

「つか、今日実習でチョコ作ったじゃん? もう忘れた?」
「興味ない」
「ですよねー。でもいいから貰ってよ」
「それ、実習で作ったやつ?」

 その割には、きちんとラッピングされている気がする。
 授業ではそこまでやらなかったような……気がする。

「そだよー。綾那の為に愛情いっぱいの手作り!」
「何かヤバいクスリでも入れてるんじゃないだろうな?」
「もう信用ゼロですな。ってか、これ綾那の目の前で作ったやつだからね?」
「仕方ない。ド変態のエロ魔人だからな」
「……さいですか……」

 眉間を指で押さえて苦悶する順を一瞥して、一時中断していたゲームを再開する。

「いらない?」
「甘いもの苦手なの、知ってるでしょ?」
「綾那の嗜好は把握済み。だから、甘くないの作ったの」
「いらん」
「食べてみないとわかんないじゃん」
「……いらん」

 すぐ隣、私を覗き込むようにいる順を追い払う。
 邪魔で画面が見えん。

「えー、はやてちゃんのは受け取れてあたしのは受け取れないってコト?」
「あれは受け取ったんじゃなくて、無理矢理持たされたんだ」
「……なるほど。無理矢理ならいいんだ?」
「は?」

 ガサガサとビニールを破る音が聞こえる。
 嫌な予感がして再度ゲームを一時中断して順に振り返ろうとして。
 すぐ目の前に、チョコを咥えた順の顔があった。

「っ、んっ!」

 唇を塞がれて、口移しに噛み砕かれたチョコを流し込まれる。
 離そうにも上から押さえつけられて離せない。
 何より、既に両手は掴まれていた。

「ぅ、っんん! ………んっ」

 順の顔が離れるのと、流し込まれたチョコを飲み込むのが同時だった。

「どう? 甘くなかったでしょ?」
「っ、わかるわけないでしょこんなので! つか、離せ!」
「やーだよ」
「お前、いい加減に……」
「怒ってるんだからね、これでも」

 少しトーンの落ちた声に言葉を遮られる。
 私を見下ろす順が、真剣な顔をしていた。

「綾那はもう少しあたしを信用するべきだと思います」
「……いきなり、何言い出すかと思えば」
「いきなりじゃない」

 目を伏せた順が呟く。

「ずっと。いつもじゃん」

 声が細い。
 泣いてしまいそうな程に。

「もっと、近づいてくれてもいいじゃん。綾那が遠い。それって、すっごく不安になる」

 ……本当に、今更、何を言い出すのかと思えば。
 お前がそんな事を気にしていたのか。

「………………」

 私の言葉を待っているのか、押し黙ったままで私を見る順。
 瞳には、言葉同様の不安や恐れや……色々なものが混ざった色が浮かんでいる。

 ……だから、どうして今になって言い出すんだ。
 お前に預けた気持ちは嘘じゃない。
 ふらふらとするお前に置いて行かれそうに感じるのは、むしろ私の方だというのに。
 不安を感じているのは、何もお前だけじゃない。
 向けられるお前の好意が本当に真っ直ぐだから。
 だから、不安になる。

「…………何か言ってよ。それとも、何も言うことなんてない?」
「……手、離せ」
「やだ。逃げるんでしょ?」
「逃げないから、離して」

 たっぷりの躊躇いの後、押さえつけられていた手から圧力が退いて、順が少し離れた。

「お前、バカだな」
「なっ、いきなりそんな事言うわけ?」
「信用してない相手に易々とキスなんてさせない。身体に触れさすなんて持っての外。それは、お前にしか許さん。そんな事もわからないのか?」

 こんなこと当たり前だろうに。

「……だから、いきなり何だって言ったんだ。わかった顔してたのは、違ったの?」
「ぁ……う、ううん。そんな事ないよ?」
「だったら、いちいち聞くな」

 何度も確かめないで欲しい。
 重ねて聞かれると、大切な事も何だか薄っぺらいものになってしまいそうだから。

 どこかきょとんとしている順から離れて、投げ出していたコントローラーを手繰り寄せてゲームを再開する。
 沈黙の間を、テレビから流れる賑やかな音がただ流れて行った。

「……あの、綾那?」
「何だ」
「もしかして、怒ってる?」
「別に。お前のバカさ加減にうんざりしてるだけだ」
「怒ってんじゃん」

 ぽつりと漏らされた非難の言葉は無視。
 少しの間を置いて、ガサガサとビニールを漁る音が聞こえた。

「じゃあ、はい。カリカリしてる時は甘いもの」

 はい、と小さな正方形の板チョコを渡される。

「……甘くないんじゃなかったのか?」
「まぁ、ほら、仲直りの印ってコトで」
「……フン」

 手渡されたチョコを頬張る。
 小気味良く割れる歯ごたえと口に広がる甘味を抑えたカカオの風味が、実に良かった。

「…………甘いな」
「えっ、ウソっ!」
「ん」

 喚く順に手を差し出す。
 再度きょとんと私を見る順。

「ん? 何?」
「もうひとつ」
「え?」
「美味しかった。だからもうひとつ」

 そう言葉を繋げると、ぱあっと嬉しそうな笑顔になって差し出した手にチョコを乗せた。

 甘く感じたのはチョコじゃない。
 甘く感じたのは、順に対する自分の緩い気持ちだった。

おまけあります。(※マンガ・微エロ注意)

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