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笑顔(EVE burst error)

「ね、まりなさん。まりなさんは、私が呼んだら来てくれるかな?」
 バスルームから出てきた私をそんな真弥子ちゃんの声が出迎えた。
「ん? どうかしたの?」
 バスタオルで髪を拭きながら、ベッドに座っている真弥子ちゃんの横に腰を降ろす。
 振り向くと、はにかんだ笑顔が慌てた様にうつむいた。
「ううん。ただ、ちょっとそう思っただけ。何でもない」
「もう、何よー?」
 肩で隣の真弥子ちゃんの肩を小突いた。
「もうっ、まりなさん!」
「あははっ、ごめん。でも、そうね。真弥子ちゃんが呼んだら、どこにでもすぐに駆けつけるわ。本当よ」
「うん。まりなさんならそう言うと思った」
 くすくすと笑いながら頷いている。
 私は髪を拭いていたバスタオルを肩にかけると、わざとらしくしかめ面をした。
「あ、もしかして確信犯?」
「んー、どうかしら? ふふっ」
「っもう。真弥子ちゃんてばー」
 再度肩を小突く。
「だって、本当にそう思ったし、絶対に来てくれるって確信、あるから」
 恥ずかし気に呟くそれがかわいくて、私は彼女の左頬を指でつついた。
「このこのぉ、かわいい事言ってくれるじゃない。こんなに愛されてるなんて、お姉さん感激しちゃったゾー!」
「大げさよー、まりなさん」
 そして、二人同時に笑い出した。

 彼女は、任務で依頼された護衛のターゲット。
 それ以前に、友達でもある。
 私にとって彼女は、とても大切な存在になっていた。
 絶対に守りたいと思った。
 だから………。

「真弥子ちゃん!! どうしたの?! 早く……!」
 僅かに首を横に振ると、彼女は優しい笑みを浮かべた。
「まりなさん……みんな……ねぇ、そんな顔しないで……もっと笑ってよ? そうしたら、私、もっと幸せになれる」
「?! っ………真弥子ちゃん……?」
「…………まりなさん。迎えに来て、くれる……?」
「何言ってるの! 私と一緒に来るのよっ!」
 目の前の真弥子ちゃんに駆け寄って連れ出したいのに、どんどん浸水してくる水に足を捕られて、思う様に動けない。
 それでも彼女は笑顔を絶やそうとしない。
「法条! 早くしないと俺達もヤバイぞ!!」
 後ろで小次郎が叫んだ。
「わかってる! わかってるけど……!!」
「……私は大丈夫。だって、後からまりなさんが来てくれるんだもん。だから、行って。絶対に迎えに来て」
「真弥子ちゃん!!」
「法条、早く!」
 小次郎が私の腕を掴んで引きずって行く。
「離してよ! 彼女がっ、真弥子ちゃんがっ!!」
「約束したんだろっ! だったらまた逢える!! 今は退く時なんだ!!」
 言葉と同時に、小次郎の手に握られていた酸素ボンベを渡された。
「………………」
「行くぞ」
 その合図で、小次郎とプリシアは冷たい水の中へと身を踊らせて行った。
 私は、もう一度、彼女へと振り返った。
 笑みを絶やさない彼女。
 場違いな、笑顔。
 その笑顔を記憶に焼き付けた私は、その場から水の中へと飛び込んだ。
 彼女の幸せそうな笑みに見送られながら……。

「真弥子ちゃん……」
 冷たくなった手を取る。
「迎えに来たわ、真弥子ちゃん……約束通り、迎えにきたわよ……」
 静かな沈黙が通り過ぎていく。
「………………っ……」
 取った右手を強く握り締める。
 その手の甲を、後から後から流れる光の筋が伝っていく。
『泣かないで……笑ってよ。ねぇ……まりなさん……』
 頭の中に響いた声。
 その声が嬉しくて、それが悲しくて、私はそのまま彼女の手を握ったままだった。

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