Retrovirus
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希望の光(EXODUS Guilty)

「ほらっ、手、つかまって!」
 少し高い岩壁を登り切った後、嬉しそうに振り向くなり私に手を差し出してきた。
「大丈夫です。一人で登れますから」
「ダメダメ! 今日は私がライリー誘ったんだからっ。言うこと聞きなさいっ!」
 差し出していた手でびしっと私を指さす。
「とにかく、ほらっ」
 再度催促され、仕方なく私はスィー様の手をつかんだ。
 久しぶりにネーネから休みをもらい、スィー様の提案で近くの海を見に来ていた。
 と言っても、この世界の海は赤く酸化し、一匹も魚は住んでいない。
 その他の自然もそう。
 木々は枯れ果て、大地は荒々としていて草木1本も生えず、空もどんよりと雲が覆い薄暗い。
 二百年前までは、この大地にも沢山の緑が覆い繁り、海の水や空も澄んだように青く綺麗だったと聞く。
 その中で生活している私達にとっては、今見ているこの景色が普通なのだと感じているけど……。
「良かったー。今日はちゃんと見えるー」
 遠くを見るような仕草で嬉しそうに声をあげるスィー様。
 私もスィー様と同じ方向を見つめた。
「そうですね。この間よりはジーナ・イー城の明かりがはっきり見えますね」
「ここから見たら、あのお城の明かりも綺麗なんだけどねー。近くで見ると、すごく威圧感感じるし」
「そうですね」
 うーんと伸びをした後、平たい岩場を見つけ腰掛けると、スィー様は笑顔で私に振り向いた。
「ライリーもおいでよ。風、気持ちいいよ?」
「はい」
 促されるままスィー様の隣へ腰掛ける。
「……ね、ライリー」
「はい、何でしょう?」
「今私達が見てるこの景色、どう思う?」
 風になびく髪を押さえながら問いかけてくるスィー様。
「殺風景だと思います。自然と言う自然がありませんから。昔はこの世界も自然に満ち溢れていたと聞いたことがあります。大地には緑が溢れ、水も透き通り、空は青く澄んでいたと」
「うん。見てみたいよね。そんな素敵な自然。でも、すぐには無理だよね。木を植えても、今みたいな荒れた土じゃ、なかなか育たないもの」
 ふう、と溜息をついて、再度城の方へと視線を戻した。
 スィー様はまだ自分が王室の、最後の王女だと言う事を知らない。
 ネーネからは、王家のしきたりで、スィー様が18歳の誕生日を迎えるまでこの事は絶対に他言してはならない、と念を押されているからだ。
『スィー様なら、必ずこの地に失われた光を取り戻して下さる』
 これがネーネの口癖だった。
 地上から失われた光を、この死んだ大地に、沢山の緑を取り戻す事の出来うる方。
 それが……。
「このまま王様が何もしなかったら、この風景はいつになってもこのままだね」
 不意にスィー様がポツリと呟く。
「……そう、ですね」
「ね、みんなで協力して頑張れば、出来るかな?」
「しかし、今の状況は、国民が生きていける最低ラインギリギリですので、難しいと思います」
「そっかー。そーだよねー………」
 残念そうに、手元にあった小さな石を酸の海へ投げ込む。
「あーあ。私が王女だったらなー」
 突然の言葉に、私は一瞬言葉を失った。
「そしたら、絶対に頑張るんだけどなー! この大地に、溢れるほどの綺麗な自然を!」
 その場に立ち上がると、両手を大きく広げながら私へと向き直る。
「……………なーんてね」
 えへへ、とおどけながらペロッと舌を出す。
「ビックリした?」
「………はい」
「うん。そーじゃないかと思った。だって、ライリーすごく驚いた顔してたもん」
 嬉しそうに笑うと、風になびいている髪を押さえた。
「……………出来ると思います」
 私を見つめる優しい目を見ていた私は、不意にそんな言葉が口を突いて出た。
「えっ?」
「私は、あなたなら、きっとこの世界に自然の光を取り戻す事が出来ると思います」
 真剣に見つめ返す私の顔を、不思議な顔をしたスィー様が覗き込んできた。
 近づいてきた影に、はっ、と我に返る。
「どうしたの? ライリー。急に?」
「………いえ、ただ単にそうだといいな、と思った事を言っただけです」
 慌てて言い訳を加えた。
 自分の言った事にばつの悪さを感じ、視線を反らした。
 ネーネから口止めされていたのに、どうしてあんな事を言ってしまったんだろう……。
 彼女があんな事を言い出すから、思わず言ってしまったけど……。
 ……そうだ。スィー様は本気でそう思っているの?
 もうそろそろ彼女は18歳の誕生日を迎える。
 突然「自分は王女だ」と告げられて、彼女は本当に王位継承してくれるの……?
「風が出てきたねー。………帰ろっか?」
 ポンと私の肩を軽く叩くと、同意を求めるように首を少し傾ける。
「そうですね。帰りましょうか」
 降ろしていた腰を上げて、岩壁から降りるスィー様の後に続いた。
 シティ・ギルドへの帰り道、珍しくスィー様は一度も言葉を交わそうとしなかった。
 うつむいたまま、何かを考えている様にも見える。
 そして、街の入り口に差し掛かった所で、急にその足を止めた。
「ライリー」
 そう言って振り返ったスィー様は、なぜか笑みを浮かべていた。
「私ね、ライリーの言葉、嬉しかったよ」
「えっ?」
「ライリーがそう言ってくれると、ホントにそうなりそうな気がする。………不思議よね」
 笑顔のままくるりと私に背を向けると、そのまま街へと進んでいく。
『私は、あなたなら、きっとこの世界に自然の光を取り戻す事が出来ると思います』
 ふと、私の言った言葉が頭を過ぎる。
「………スィー様………」
 突然の事に呆然としていた私は、慌ててスィー様の後を追った。

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