Retrovirus
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秘情

「ここで手を止めるのは反則だと思うけど?」

 熱っぽい声が笑いを含んで私を咎めた。
 いつもの部室。
 ここには他の部員もなく。
 目の前には長机に身体を預けた二つ上の上級生がいるだけ。

「それとも、これで終わり?」

 挑発するような目で私を見上げて、私へと伸ばされた手が頬を掠めて後ろ髪を撫でられた。
 どんな経緯があってだなんていちいち覚えていない。
 今この瞬間は、誰にも咎める事が出来ない時間であって。

「お好きですね、あなたも」

 止めていた手で再度剥き出しになっている内股を撫でる。

 うっすらと汗ばんでいる肌の感触が好きだ。
 ファインダー越しに見るそれとはまた違った色香を持ち、自分とは違う熱を持つそれに触れて、味わって、融けるような意識を共有しあうこの行為がこんなにも快楽を生むものだとは思わなかった。

 気持ちが同じでないといけないとか、姉妹の契りを交わしていないとだめだとか。
 私にはそんなものは関係ない。
 それは向こうも同じなのか。
 大事にすべき妹もいて、自身を取り巻く友もいて、大切な人達もいるだろうに。
 どんな心境があって、こんな薄暗い場所で多少の面識しか持たない下級生を捕まえて、こんな。

「焦らさないで……してよ」

 こんな、甘ったるい声で。
 他の誰かが、例えば彼女の親友だとかが見たら疑ってしまうような艶やかな表情で。
 自分を抱けだなんて言わないで欲しい。
 こんなの、誰でもその気になってしまう。

「……いいですよ」

 望み通りに、犯せばいいのでしょう?

 大きく開かれ晒された両足の間の、すでに熱いぐらいに熱を持つそこに遠慮なく指を二本突き立てる。
 潤っていた泉が溢れて、手の甲を伝ってひとつふたつと床に染みを作っていく。
 普段は決して聞く事など出来ない嬌声が耳の奥を駆け抜けて、頭の中がジンジンと麻痺してきていた。

 これがこの人ではなくて、あの子だったら。
 同じように快楽を共に出来るのだろうか?

――――今は、私を見て、くれないと」

 心を読まれたのかと思って彼女の目を見返す。
 カーテンで遮り損ねた光が漏れて僅かな光源の元に、蒼の瞳が鈍く光った。
 下半身は私の指を内へ搾り取ろうとするように強弱をつけて萎縮している中で、荒い呼吸の間に呟かれた言葉が重く私に突き刺さる。

「誰かを重ねるなら、それでも構わないけれど。その名前は呼ばないで」

 口元にはうっすらと自虐的な笑み。

「多分、一緒だから」

 えっ?と言おうとして、言葉が飛び出すよりも先に唇を塞がれた。
 愛しさから交わすものでなく、行為のひとつとしての交わる口づけ。
 急に頭を掻き抱かれ、バランスを崩して彼女の上に倒れる格好になる。
 片手は彼女の中から滑り落ちて、もう片手は自分の身体を支えるために空いた机に突いた状態。
 数回舌が絡まって、その合間に荒い呼吸が重なって、首に回された腕がやんわりと私を押し返した。
 そのまま、私の視界をはっきり映していた物をあっさりと奪って床へと投げ捨てた。

「ちょっ、もう少し丁寧にあつか……」
「代わりなんて幾らでもあるじゃない」

 飄々と答える彼女を睨む。
 正確には、目を細めて幾らかまともに見える視界で彼女を見た。

「代わりなんて、結構何にでも務まるものだと思わない?」

 鼻先が擦れるぐらいの近距離で、真っ直ぐに私を見上げる蒼。
 今抱いている私をも何かの「代わり」だとでも言いたそうな、その瞳。
 何も言えなかった。
 ずっと同じ事を、私も思っていたから。

 ……だから、なのか。
 求められたのは。
 本当に、それだけ……?

 微かな息遣いだけが聞こえてきそうな静寂の中。
 求められてまた彼女へ静かに口づけを落とした。
 長い長い間、それしか知らないように。
 解けた感情の中に見えたものを互いに見て見ぬ振りをして。
 ずっと、馴れ合い続けた。

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