Retrovirus
MAINLOG

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コトバの裏側(Fate/hollow ataraxia)

 ちょっと付き合って欲しい。
 そう言われて、住処にしている洋館の裏手の広場に連れて来られた。
 軽くウォーミングアップ代わりの柔軟体操を念入りにするヤツを横目に、オレもつられて屈伸をする。

 つまりは、どういうつもりかはわからないのだがちょっと稽古に付き合えと誘われたのだ。

「で、目的は?」
「目的?」

 一通りのストレッチを終えたバゼットに声を掛ける。
 ヤツは首を僅かに傾けて不思議そうな顔をした。

「組稽古以外の目的がいるのですか?」
「…………いや、それでいいぜ」

 足元に転がしていた自分の腕の長さ程の棒切れを蹴り上げてキャッチする。
 組稽古だというのに、オレには道具を使ってもいいなんて余裕綽々な発言をかましたバゼットは、いつもの通り愛用している革の手袋を手に嵌めて準備万端だと視線をオレに投げかけてくる。
 まぁ、ここでお互いどの程度の力量があるか見ておくのも今後のためになるだろう。

「よし、んじゃ始めるか」

 手にした棒切れで何度か素振りしてバゼットと向き合う。
 戦闘態勢に入ったヤツの雰囲気が一転した。

「組稽古とはいえど、本気で掛かってきて下さい。手加減はしません」

 トントンと軽いステップを踏みながらそんな殺ル気満々な発言。

「オーケーオーケー、そうじゃないと楽しくねぇ」
「では、行きます……!」

 言葉が終わるか終わらないかの瞬間にヤツがいた場所が弾ける。
 弾丸のように突っ込んでくるヤツの一撃を左へ飛んで大きくかわした。
 それまでオレがいた足場を蹴って勢いを殺さないまま更に追撃してくるバゼットの右ストレートを左ストレートで相殺。
 続いて向こうの左の拳が唸る前に右の膝をヤツの腹へと放つがあっさりとかわされ、逆に拳を合わせた腕を軸にされ投げ飛ばされた。
 空中で体勢を整え着地。
 前を向けば、蹴りを繰り出しているバゼットの姿が。

「ぐっ……!」

 脳を直接シェイクされるような強い衝撃を受けて横飛ばしにブッ飛んだ。
 途中で地を蹴って反転、何とか着地。

 くそ……本当に手加減しやがらないなヤツは。
 ズキズキと痛む左側頭部をさすって前を睨む。

「手加減無用と言ったはずです。それとも、その程度ですか?」

 先程と同じ軽いステップを踏みながらの牽制。
 しかも、楽しそうに笑みまで浮かべて。
 こいつ、相当戦いが好きなのか?

「わーってるさ。本気、だろ?」

 握っていた棒切れを構える。
 ……ったく、意外とオレのマスターは戯れが好きと見える。
 ならば、こっちも相応にもてなさないとフェアじゃない。

「っは!」

 地を蹴って相手との距離を縮めて、牽制がてらに袈裟懸けに一閃。
 思惑通りにバックステップで後退したヤツを追って二撃、三撃。
 軽いフットワークで右へ左へとかわすバゼットを追いながら、ふと視界に大きな樫の樹が目に入る。
 そうだ、この周りは全て樹が蔽い茂る林だ。
 なるほど、こいつを使わない手はない。
 繰り出された上段蹴りを体を捻ってかわして、振り返り様にわざと大きく棒を振りかぶった。
 それを見逃すバゼットではないはずで。
 大きく開いたオレの脇腹目掛けて流れるような動きで放たれた回し蹴りを甘んじて受けた。
 飛ばされる衝撃をバネに思い切り林の中へと背中から突っ込む。
 適度な距離を離してから体勢を整えて着地。
 そうして、地を蹴って近場の樹に駆け上がる。
 その途中で実体化を解いて姿を消した。

「臆したか、ランサー?」

 林の中に消えたオレに宛てての挑発。
 相変わらず声には笑みが含まれている。
 そういえばこっちはまだ一撃もヤツに食らわせていない事を思い出す。
 くそ、何だか悔しい気が。
 駆け上がった樹の頂上付近から隣の樹へと飛び移る。
 ガサガサと派手な音を立てて動くオレの気配を追って、バゼットの殺気もオレを補足しようと追ってくる。
 今ここでバレるのは格好つかない。
 だから、バゼットの斜め上辺りの樹の上からずっと握っていた棒切れをヤツに向かって投げつけた。
 槍投げの要領で投げつけた棒を難なくかわしたバゼットの背後を取る。
 意識が反れた?! よし……!
 身を潜めていた樹のてっぺんから飛び出して霊体化を解きながら丁度真下にいるヤツに向かって急降下。
 このまま押し倒してやる……!

「なっ?!」

 全身を使って着地したそこには、バゼットの姿はなかった。
 地に足を着いた時に見たのは、器用に体を反転させながら横跳びした姿で。
 そのまま3~4回回転しながら距離を離したバゼットが大きく息を吐いた。

「チッ、甘かったか」
「霊体化を使った奇襲とは、やりますね」

 嵌めた手袋を正して、再度拳を握る。
 
「しかし少々荒い。それではすぐに気づかれてしまいますよ」
「うるせぇ。オレは正面からやり合う方が性に合ってんだよ」
「なら、打ってくればいい」

 右の握った拳を解いて人差し指でちょいちょいとオレを挑発する。
 ……少し、カチンと来た。

「あぁ、そのつもり、だ!」

 ヤツに突き進む自分の手にはゲイボルク。
 こうなれば力押しでやってやる。
 最初の薙ぎの一振りを構えて繰り出そうとした瞬間、強い殺気を感じて急ブレーキをかけた。
 足元の草のせいでスピードが殺しきれずに、棒高跳びの要領でゲイボルクを杖にして空中へと跳んだ。
 刹那、今までオレがいた場所の地盤がバゼットの放った踵落としの足を中心にして半径1メートル四方が沈む。
 ……感じた殺気はこれだったのか。

「うっわ……なんてバカ力だ」

 空中でそれを眺めながらヤツとは逆の位置へと降り立つ。

「ふむ、これをかわすとは」
「オレを殺す気か?」
「言ったでしょう、本気でやると」

 ゆらりと立ち上がるバゼット。
 本当に、こいつは加減を知らないのか。

「あなたも、それを手に取った以上は真面目にやってもらいたい。これ以上戯れると言うなら私にも考えがあります」

 それ、と顎で手に持つ獲物を差す。
 ……バレていたか。
 仕方ないだろ。
 これがどんな状況であれ、前方で戦闘態勢を取っているあいつはオレのマスターであり、しかし女なんだ。
 女子供に手をあげる趣味はオレにはない。

「さぁ、仕切り直しましょう。覚悟は良いですか、ランサー?」

 体勢を整えながら両の拳に小さく何かのルーンを刻む魔術師。
 って、おいおい!

「やっぱお前殺る気満々じゃねーか!」

 何事もなかったように拳を構えるバゼットを一瞥して溜息。
 そうして、オレも渋々ながらゲイボルクを構えた。

「はぁっ!!」

 気合を吐きながら突進してきたヤツの一撃を右に逸れてかわす。
 その時僅かに掠った服の胸元がパックリと引き裂かれた。
 ……マジかよ。
 ガラ空きに見せられる背中を見送って再度距離を取る。
 向こうの範囲に入るとこっちが不利になる。
 ならば、オレの範囲で戦う事が出来ればいいのだが。
 思った以上にバゼットの戦闘のセンスは良い。
 下手に距離を開ける方がかえって危険を呼ぶ恐れがある。
 だとしたら……敢えて向こうの土俵でやってやる方がこっちもやり易いかもしれない。

「逃げてばかりですか、槍兵」
「こっちにも都合ってモンがあんだよ」

 遠慮なしに殴りかかってくるマスターの拳をかわしながらも反撃をするが、強化のルーンか何かを刻まれた両腕で難なく弾かれる。
 こいつ、本当に人間なのか?
 上から右にかけての薙ぎを左に体を反らしてかわすバゼットの足元を返す刃で凪ぐがこれも上に跳ばれて避けられる。
 くそっ……遊ばれているのかよ……っ。
 上空にいるバゼットを睨む。
 太陽の陽を背にオレが放った棒切れを手にして急降下してくるヤツは……って!
 オレに向かって棒が放たれる。
 それを槍で一薙ぎしてしっかりとバゼットを捉えて。
 一瞬、視界が暗転。

「っぐ……っ!!」

 そう思った次の瞬間には、オレは大地に押し倒されていた。
 すぐ眼前にはバゼットの拳。
 その上の瞳は、笑っていた。

「勝負あり、ですね」
「…………そーだな」

 ビシリと構えていた拳を収めて、オレに馬乗りに乗っていたバゼットが立ち上がった。

「大丈夫ですか?」

 地に転がっているオレに向かって手が差し伸べられる。
 何だかとてもつもなく悔しいので、その手を握って、強く自分の方へと引き寄せた。

「あっ……!」
「ぶばっ?!」

 はっと息を飲んだバゼットは、バランスを保つためにあろう事かオレの顔を踏み付けてから反対側へと跳び移った。

「あっ、ら、ランサー! だ、大丈夫ですか!!」

 慌てて駆け寄りオレを覗き込む。
 普通は、あそこの場面では素直に倒れこんでくるもんだろ?
 あー……もう、何ていうか。

「かわいげねぇなお前」
「……そんな軽口が叩けるなら大丈夫ですね」

 それまでは本気で申し訳なさそうにしていた表情が一転してむっつりとした顔になる。
 無言で立ち上がって洋館に向かって数歩離れてから、突き放すようにヤツが一言。

「無駄に動いたのでお腹が空きました。ランサー、先程手を抜いた罰として食事の用意をお願いします」

 身体を起こしたオレに振り返ったバゼットの、照れくさそうに笑うその笑みで。
 本当の目的はそれだったんじゃないかと、今初めて理解した。

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