Retrovirus
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Since 2001.02.16 Japanese versiton Only.

時には素直に。

「ランサー!」

 洋館の玄関を開けて一声。
 いつもなら5秒も経たないうちに返事が返ってくる場面なのに、いくら待っても返答はない。

「ランサー、いないのですか?」

 館中に響くように声を張り上げてみたものの、彼が動くような気配はない。

「もしかして、また無断で……?」

 あれほど私には無断で外へ出るなと言ってあるのに。
 帰って来たら少し強く言わ……。
 ……いや、ひょっとしたら。

 玄関の扉を閉めて2階の広間へと向かう。

 気紛れか、たまに彼は私の呼び掛けに答えない時がある。
 それは決まって霊体化したまま私の後をついて来るような子供じみた悪戯を仕掛けようとする時。
 後は、この館の屋根に上がって空を見上げる時。
 その時はよっぽどの事でもない限り彼は動かない。
 理由を聞いても「そんな気分なんだ」の一点張り。

 正直言って、それでは困る。
 その時の気分で呼び掛けをはぐらかされるのはこちらとしても気分が悪い。
 悪いのだが。

 2階の広間へと続く扉を開ける。
 ここの窓からは、丁度彼が好んで居座る屋根の梁が見えるのだ。
 明るいうちはほとんど霊体化してあがっているため見る事は少ないのだが、たまに実体のままでいる事もある。

 もしかしたら、そこにいるのかもしれない。
 そんな淡い期待を持って部屋へと足を踏み入れる。

 もう随分と見慣れた広間。
 窓からは光が降り注ぎ、眩しいくらいの日溜りの中。
 そこに、それこそ随分と見慣れた背中を見つけた。

「……ランサー、居るのなら返事ぐらいして下さい」

 ……なんとなく期待外れ。
 一体何を期待していたのか、なんて自問して、俯きがちに居座っている彼を見る。
 けれど、やっぱり返事はない。

「聞こえているのでしょう、クーフーリ……」

 いい加減無視されるのにも腹が立って、奥の窓の近くの椅子を陣取っている彼に近づく。
 それで、納得した。
 聞こえてくるのは規則正しい寝息。
 日差しが眩しいのか、僅かに眉根に皺を寄せて、それでもゆったりとした呼吸を繰り返していた。

 初めて見る彼の寝顔に、思わず笑みが零れた。
 私に見せるコロコロと変わる彼の表情はどれも新鮮で、どれも心地よい。
 そして今、また新しい顔を見て、嬉しいと思う自分がいる。

「………………」

 気配を消して、音を立てないように更に近づく。

 ――――――今ぐらいは、自分に素直になってみても、いいよね……?

今だけは

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