呼び声(真・三國無双)
「……陸遜」
名を呼んで、口の中でそれを噛み締めた。
いつもいつも口にしてるのに、言葉にする度に顔が緩んでしまう。
「……陸遜」
暗い自室の寝室で小さく膝を抱えて、クスクスと笑いながら名前を呼んだ。
一体何が楽しいんだろう。
ただ、名を呼ぶだけの行為なのに。
胸がドキドキして、でも幸せな気持ちになる。
「……陸遜」
もう何度声に出したかわらない。
でも。
回数を重ねる程、愛しさは増してくる。
きっと、恋してる。
そう言ったら、彼はどんな顔をするだろう。
あなたを愛してた。
そう言われたら、あたしはどんな顔をすればいいんだろう。
「……陸遜」
閉じた瞼の向こうに浮かんだ彼の背に呼び掛けた。
あたしは、幸せよ。
あなたが側にいなくても。
あなた以外の人が側にいても。
「……陸遜」
抱えた膝に顔を埋める。
泣きたくなんてない。
泣けば、全てを諦めてしまいそうだから。
最後に見たのは、彼の後ろ姿。
結局、最後まであたしを見てはくれなくて。
だからあたしも背を向けて。
一歩、二歩と離れていく距離を感じながら。
ずっと、あなたを呼んでいたのに。
「……陸遜」
この声は、届いてますか?
この心は、届いてますか?
あなたの声は。
あなたの心は。
あの時、ちゃんとあたしに届いたよ。
「……陸遜」
静かな部屋にあたしの呟く声だけが響く。
冷たい部屋に言の葉だけが積もって行く。
「……陸遜」
もう一度呟いて。
あたしは。
ぎゅっと、自分を強く抱き締めた。