星(真・三國無双)
明かりの落ちた中庭に、見慣れた後ろ姿を見つけて足を止めた。
何もせず、ただじっと空を見上げている。
その姿は昨晩見た姿と同じだった。
足音を消してその小さな背に忍び寄って、
「……もう、お休みになっては如何ですか?」
静かに、そう声を掛けた。
それでも、いまだ微動だにせず、彼女は空を仰いでいた。
その痛みを、今は国の誰もが知っている。
その悲しみも。
あっけない程、人は簡単に散る。
それはわかっていた。
其れ故、命というものは尊く愛しいものだと言う事も。
動きそうにない彼女の横へ並んで、一緒に空を見上げる。
この瞬いている星空の何処かに、孫策様もいらっしゃるのだろうか。
「星を見ていると、落ち着くのよ」
ポツリと、彼女が呟いた。
「父さまも、策兄さまも、星を見るのが好きだった。果てしない大空に抱かれているみたいで心地が良いって」
言って、手を空へとかざす。
「掴めそうなのよね、あの星」
力強く光る星に手を伸ばして、懸命に掴もうと空気を掴む仕草をする。
「掴んで、如何なされます?」
少しの背伸びをしながら星を掴む仕草を横目で見て、胸が痛むのを感じた。
「……会いたい」
うっすらと笑みを浮かべていた頬に、きらりと輝く筋が流れた。
「もっともっと、一緒にいたかったのに……!」
小さく叫んでしゃがみこもうとした彼女の腕を自身へと引き寄せた。
あまりにも切なる願いが、痛かった。
その願いすら、今はもう叶う事はない。
ズキリと胸の奥が軋む。
中途半端な言葉しか持ち合わせていない自分が憎らしいと思った。
胸に顔を埋めて泣いている彼女に何も出来ないと思った。
ただ、肩を抱く事しか。
……今は、泣けば良い。
そうして、少しづつでも、いつもの彼女に戻ってくれれば。
私はそれだけで、救われるから。
空を見上げる。
瞬く幾千もの星が遠くに見えた。
彼女の掴もうとした星が一層の光を放ってこちらを見下ろしている。
それをしっかりと見据えた後。
悲しみに暮れる彼女を、強く抱き締めた。
その空の上からでも見えるように。
彼女を縛る悲しみから遠ざけるように。