透明(月姫)

やけに明るく感じる日差しをカーテンを引いて遮る。
立ったばかりのパイプ椅子に座り直して、いまだ目を覚まさない友を見た。

死んだような穏やか過ぎる寝顔に心配になって手の甲で頬に触れてみた。
相変わらずの冷たい感触。
そのまま指先を口元に持って行って呼吸を確かめる。
規則的に掛かる息を数回確認して、伸ばした手を引き上げた。

いつも通り。
まだくたばっちゃいない。

もう一度自分の中で確認して、小さく息を吐いた。

遠野志貴という存在が冷たいと思ったのはいつだったか。
慢性の貧血を持つ単なる凡人で、しかし非凡。
時に、遠野志貴という存在が霞んで、単なる人型の入れ物に見えてしまう。

いつものように、貧血で倒れそうになったこいつを受け止めようと伸ばした手のひらに感じた冷たさは、今でもはっきりと覚えている。

その時に思った。
こいつは危ういと。
同時に、遠野志貴という存在を繋ぎ止めなければと。

暮らしていく日々の中でこいつが失っていく熱を、自分が与えればいい。
求められなくとも、ただの人の型をした入れ物に成り下がられるよりかはよっぽどマシだ。

再度指先を口元に伸ばして、ほんの僅かに開かれている唇へと触れた。
水分が無いかさかさの唇を軽くなぞって、席を立つ。
死んだように眠る友へ静かに近づいて、その唇へと自身の唇を近づけた。

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